『営農経済イノベーション戦略論』筑波書房 著者 吉田成雄、小川理恵、柳京煕
1.要約 農業をする上でこの組織なくしては農業を語ることができないのが JA の存在です。JA は営農 経済事業だけでなく、信用事業、共済事業、生活事業や高齢者福祉事業など多彩な事業を兼営 する「総合 JA」として農村地域の組合員の多様なニーズにこたえる努力をしてきました。しか し、新自由主義経済体制が世界的規模で拡散していることから、農業生産を含め地域経済を疲 弊化させています。規模の力では海外に勝つことは難しい日本だからこそリスクを背負ってマ ーケティング戦略を策定するよりいかにして地域資源を有効に活用する視点がこれから必要に なってきます。 そこで参考になるのが JA 甘楽富岡と JA 富里市の二つの JA です! JA 甘楽富岡は組合員の多様性を武器に「4 プラン・4 クラス・5 チャネルマーケティング」と いう独自の営農戦略を行いました。 「4 プラン」とは、地域で農業に取り組む人たちがそれぞれのレベルと成長段階、専門性に従 ってステップアップや能率向上を実現させるためのプランです。 「4 クラス・5 チャネルマーケティング」は農家を①アマチュア農業者②セミプロ農業者③プ ロ農業者④スーパープロの 4 つのクラスに分け、①農産物直売所②都会のインショップ③総合 相対複合取引④G ルート販売⑤ギフトや料亭・デパ地下などでの直販の5チャネルでマーケテ ィングを行うことで「農家手取り最優先」を実現させました。 JA 富里市では「再生産価格」の概念を市場対応に結合することで、農家個々の経営状況の違い をむしろ生かし、年間を通して多様な販売先を確保できた。自分の経営に合う収益を確保でき る産地づくりを可能にしました。 企業などとの取引や契約栽培においても JA が農業や地域が持つ特性を理解させ、短期的な市 場変動に柔軟な値決めができるような信頼関係構築をするなど、JA が責任を持って仲介しまし た。 ここの組合員の能力を最大限発揮できる複数の「標的市場」を見つけ出した。 2つの JA とも生活に根差した総合的な役割を果たし、長期的な利益を目指したからこそうま くいったのです! これからの JA のありかたは今までのようなトップダウン型ではなく地域に根差したボトムア ップ型へあり方を変えることが必要なのです。
2.感想 JA とは農家さんが作ったお野菜や米を決められた価格で買い取り、卸売市場などに出荷するだ けの役割だと僕は思っていました。実際、黒豆で有名な篠山市の農家さんの方にお話を伺って みましたが、多くの方が JA に卸し、その JA が市場に出荷するという役割が主だということを 聞きました。今は物を作り、市場に出荷するだけでは売れない時代です。直販や web マーケテ ィングなど売り方も多様化し、農業は自分なりの工夫が求められる時代です。 だからこそ、JA の役割は変わっていく必要があると感じています。そして JA は農家さんを守 るために大きな役割を果たせると僕は考えています。 国の経済を活性化させる、GDP を上げることを第一目的とするのではなく、人々の生活基盤を 軸とし生産者、消費者、実需者の生活を繋げていくことが農業には必要でしょう。そこで多彩 な生活に根ざす事業を持つ JA だからこそ多様なステークホルダーをつなぐことができ、新た な売り方や商品が生まれていくのではないでしょうか。 課題が山積みで答えがないからこそ自分で働き方や生き方を作ることができる、そんな農業へ の希望を感じる一冊でした!
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