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執筆者の写真agritanogyo

2019.7 英語論文

“What difference does income make for Community Supported Agriculture (CSA) members in Cal ifornia? Comparing lower-income and higher-income households” Agriculture and Human Values, Volume 34, Issue 2, pp 435–452 著者 Ryan E. Galt (2017)

1.要約 この論文では、アメリカでのCommunity Supported Agriculture (CSA)がどう低所得・高所得 農家、白人黒人に収入面で影響しているかが分析されています。1149人、41のCSAという比 較的大きな調査です。 まず結論をお伝えする前に、一体CSAとは何かと疑問を持たれているかと思います。日本 でも、生産者の高齢化が進み、農業に多様な人材の参加が求められているなか、生産者と 消費者が連携し、多様な人材の参加によって実現される新たな農業のモデルとして、CSA(C ommunity Supported Agriculture)が注目されています!CSAは、生産者と消費者が連携し、 前払いによる農産物の契約を通じて相互に支え合う仕組みです。CSAはアメリカで1980 年 代に最初に始まったとされ、現在では欧米を中心に世界的な拡がりをみせています。CSAは 農作業や出荷作業などの農場運営に消費者が参加する特徴をもち、生産者と消費者が経 営リスクを共有し、信頼に基づく対等な関係によって成立します。そのためCSAはコミュニティ 形成や有機農業の振興など、地域への多様な効果をもたらす新たな農業モデルとして注目 されています。神奈川県大和市の「なないろ畑農場」、茨城県つくば市の「飯野農園」を始め とし、国内でもCSAの事例が増えています。 簡単に例を挙げてみると、、 CSAでは、消費者が野菜セットの代金を1年あるいは半年といった単位で前払いすること や、援農など農場運営に積極的に関与する点に大きな特徴があります。CSAの代金前払い は、天候不順による不作のリスクを、消費者と農家の双方が共有することを意味していま す。農家からすれば、収量が減少したとしても、定額の収入が確保され、安定した経営のもと で農業に従事できます。一方、消費者は、顔が見える関係のなかで、年間を通じて安全で質の高い農産物を入手することができます。CSAは、地域の消費者と農家が相互に支え合う 仕組みといえるでしょう。 このようなCSAがもつコンセプトは、従来であれば消費者のままであった多様な人材を、農 業の担い手あるいは支援者へと導き、消費者参加型の農業へと展開する期待をもたせてく れます。同時に、地域の消費者間のコミュニティ機能の増進や、農地保全といった地域に及 ぼす様々な効果の発揮にもつながると考えられます。 アメリカのNYでは、この生産者と消費者をつなぐ委員会「Just Food」という仲介マッチングの 役割を果たす組織もできています。 日本の事例: 日本でも明確なCSAのコンセプトはあるのですが、あまり日本の環境には馴染まず現状で はその数はわずかです。日本にはなぜCSAが馴染みにくいかは、皆さんへの宿題とします。 ここではいくつか成功しているCSAを紹介したいと思います。 まず、宮城県大崎市の「鳴子のお米プロジェクト」が挙げられます。こ のプロジェクトでは、品目は米に限定されるものの、地元産米を地域の温泉 旅館・ホテルや住民が買い支える仕組みを有しています。同様に、中山間地 域の棚田で取り組まれている棚田オーナー制も、棚田の景観や環境の保全へ の価値意識をもつ消費者が会員となり、前払い契約によって米の売買が行わ れる点で、CSAと共通点をもった活動といえます。一方、CSAのコンセプトをもつ新たな取り 組みも始まっています。東北食べる通信(カタログを発行。月 2,580 円で年2~3回の産物と ともに、生産した農家や漁師を紹介する記事が届く)は、宅配による広域型CSAとしての可 能性を持ちますが、この場合のCはコミュニティ=地域でなくコンシューマー=消費者といえ るでしょう。また、埼玉県の小川町霧里地区・こめ まめプロジェクトとして、建築会社である株 式会社OKUTAが、小川町の 有機農家と連携して開始しました。金子美登氏らの有機農家 グループが生産 する米を毎年買い取り、社員の給与の一部をお米で支給しています。 皆さん、CSAの仕組みを少し掴むことはできたでしょうか? アメリカでは1万を超えるCSAが存在すると言われており、アメリカでのCSAの論文は必然的 に多いことがわかります。この論文の結論としては、低所得者の農家さんの方が高所得者層 よりも、CSAによりコミットするという結果が示されています。経済的なリスクを抱えている人ほどCSAに依存する構造になっているということですね。またCSAを利用する低所得層農家 は。ほとんど“白人”というデータが出ています。ただし、CSA利用者の年収が上がるにつれ て、黒人の割合が増えていくと示唆されています。人種や民族、文化などにもCSAのパフォ ーマンスが左右されるというのは非常に興味深い結果ですね。 私たちも丹波篠山市の活動において、生産者と消費者の距離を縮めるという目標を掲げて おり、CSAの実験をやってみようかと思います!

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