消費者の野菜の外観に対する評価
浦出俊和
農業経営研究 第58巻第2号(通算185号)
◎要約
農産物の規格は,サイズを区別する 「階級」 と 見た目の良さを区別する 「等級」の2つからなり, 同じ品質のものの生産が困難な農産物の流通にお いて 品質の一定性を保つ指標として重要な役割 を果たしている。 高度経済成長期を経て, 農産物 流通の大量化 広域化が進展し、産地間競争の激 化によって, 農産物の規格は厳格化した。 さらに、 大規模量販店の台頭によって, 大ロットかつ高位 平準的な品質への需要が高まり、より一層規格が 厳格化し、糖度などの内部品質にまで規格が導入 されるようになった。 このような農産物の規格の 厳格化焦りは栽培管理における負担の増大, 選別・ 出荷に係る労働時間の長時間化といった生産者へ の負担増という問題をもたらしている。 さらには, 傷の有無や形の良し悪しといった, 外観に関わる 規格外野菜の廃棄も社会問題化している。 現状で は、農産物の規格の厳格化に起因する問題が深刻 化しており,その解消が課題となっている。
一方、日本政策金融公庫 (2010) によれば, イ ンターネット調査の回答者の約7割が青果物の規 格の撤廃や大幅な緩和をするべきと回答しており、 また、購入経験がない回答者の5割以上が規格外青果物の購入意向を有していることが示された。
しかし、この調査では 「規格外の野菜・果物」 全般に対する消費者の評価を示しているものの、 青果物の品目、外観の違いや程度に対する詳細な評 価は明らかにされていない。 具体的な青果物の品 目や外観を対象とした先行研究としては, 中川ら、 (2016) や武馬 (2011) がある。前者は、有機栽 ジャガイモを対象として, サイズ規格外及び不 イモの消費者購入意識を調査しており後者で は、コンジョイント分析によって 「曲がりキュウ リ」 に対する消費者評価を明らかにしているし かしこれらは、 品目, 外観条件、外観の程度の違 いは考慮されておらず、 消費者の外観の悪い青果 物に対する詳細な評価がなされたとは言い難い。
そこで本研究では, アンケート調査を実施し、 野菜の品目の違いと外観の程度の差異に着目した。 消費者の外観への評価を明らかにするとともに, 順序プロピット分析を行うことによって消費者の 外観の悪い野菜に対する許容度に影響を及ぼす要 因を把握することを目的とした。
消費者の野菜の外観の程度に対する評価を明ら かにするためにスーパーの買い物客を対象とし た調査票による対面調査を実施した。 具体的には. 2018年10月29日 (月)~11月2日 (金)の期間 に毎日 13:00~17:00 の時間帯で, 出来る限り 1 時間当たりの回答者数が 10 人となるように、 調 査店舗の店頭にて買い物客にランダムに調査票を 配布し、その場で調査員の説明を受けながら回答 してもらい、 回答者には謝礼品 (リーフレタス】 袋) を手渡した。 調査を実施した店舗は, 大阪南 部を中心に展開しているローカルスーパーの旗艦 店であり、普段より商品のモニタリングを実施し ている当該スーパーの代表店舗である。 主な調査 内容は、 回答者属性, 日常的な野菜の購入行動, 購入重視点, カット野菜やインターネット通販の 利用実態 外観の悪い野菜への評価, 及び具体的 な野菜の外観の程度に対する購入意向である。
本研究では, 日常的に野菜を購入している消費者の野菜の外観の程度に対する許容度とそれに影響を及ぼす要因を明らかにすることが出来た。
消費者の野菜の外観の程度に対する許容度は, 野菜の品目や外観条件によって異なることが明ら かになった。 また同時に、価格の引き下げは外観 の悪い野菜に対する許容度を向上させるが、許容 度の低い品目や外観に対しては、その効果が小さ いことも明らかとなった。 本来許容度の高い品目・ 外観であれば、 特に、大きさのばらつきや形といった品質の劣化と関係づけられない外観について は、その規格の基準を引き下げても需要が維持で きることを示唆している。
一方、外観の悪い野菜に対する許容度に影響を 及ぼす要因として、価格効果と年齢があげられる。 しかし、 価格と年齢以外にも消費者の購買行動 における意識 外観の悪い野菜に対する認識さ らには、農作業体験の有無も影響を及ぼしている ことが明らかになった。 つまり消費者の野菜晴 買時における意識・行動を変えることが出来れば、 外観の悪い野菜に対する許容度を高めることが出 来ると考えられる。 具体的には本格的農作業体 験でなくても観光農園における体験や、 販売店に おける丁寧かつ詳細な商品説明を通じて, 消費者 外観の悪い野菜を正しく認識させ、安全性や流 通に対する不安を軽減させることによって, 外観 の悪い野菜に対する許容度を高めることが出来る と考えられる。
上述の野菜の外観に関する規格の基準の設定に は、様々な品目・外観に対する消費者の認識を明らかにする必要があり、 例えば、多様な 品目や外観を対象としたコンジョイント分析など が考えられるが, これらは今後の課題として残さ れた。 また, レタスの分析結果の一部に整合的で はない結果が得られたが、 この要因の究明も今後 の課題としたい。
◎感想
これまで、構造方程式モデルの分析は良く目にしてきたが、ダミー変数を用いて、順序プロビットモデルを採用している点は、新たな発見だった。何を採用するかもう一度考え直したい。
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