ソーシャル・キャピタルの経済分析 「つながり」 は地域を再生させるか?
要藤正任
Kyoto University, 2019
信頼, 互酬性の規範, ネットワークといった人と人との関係に着目した概念であるソーシャル・キャピタルは, 市場の質, 地域コミュニティ, 個人の健康や幸福を支える資本であり, 経済活動と深い関わりを持っている. 豊かで持続可能な地域社会の形成に向けてソーシャル・キャピタルを活用していくためには, それを定量的に把握し, どのような影響をもたらすかを把握しておくことが必要となる. 本論文は, このソーシャル・キャピタルを定量的に捉え, それが地域に与える経済的な影響とその形成要因や世代間での継承を明らかにし, ソーシャル・キャピタルを活用した地域の再生方策を提示することを目的としている. 本論文は大きく 2 つに分けられる. 第 4 章までの前半では, 第 1 章, 第 2 章においてソーシャル・キャピタルの概念や計測に関するこれまでの議論を概観しつつ, 第 3 章, 第 4 章において, ソーシャル・キャピタルがもつ取引コストの低下, 自発的な協調行動の促進, ネットワークによる情報共有という効果が, 経済活動の活性化・効率化, 住民主体の地域づくり, 新たなイノベーションの促進といった経路を通じて地域経済に正の影響をもたらす可能性を明らかにするため, 既存のアンケート調査等のデータを活用しながら, マクロ・ミクロ両方の視点から, ソーシャル・キャピタルと地域経済との関わりについて定量的な分析を行っている.
まず, マクロの視点からは, 経済成長に影響を与える諸要因と一人あたり GDP の成長率との関係を検証する成長回帰 (Barro Regression) と呼ばれる手法を用い, わが国における都道府県別の経済成長に与える影響を検証している. 具体的には, 個人的ネットワーク, 市民参加という指標を作成し, 1980~ 2014 年の長期間における経済との関係を検証するとともに, 経済成長において重要な要素である TFP との関係についても検討し, ソーシャル・キャピタルが経済成長に正の影響をもつことを明らかにしている. ミクロの視点からは, 地価データを地域の価値の代理変数として利用した回帰分析を行い, 住民等を主体としたエリアマネジメントと呼ばれるまちづくり活動と地域の環境価値や経済的価値との関係性について検証を行っており, 市町村を対象にした全国的なアンケート調査結果をもとに, クロスセクション及びパネル・データを用いた分析を行い, 住民等の自発的な協調行動のあらわれであるエリアマネジメント活動が地価に対して正の影響をもたらすことを示している.
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